「東京から来た鳥」
SNSで始めて彼とメッセージのやりとりをした時は、軽い暇つぶしのつもりだった。だけど、何度かメッセージを交わすうちに、そんなに悪い人じゃないな、と感じてきた。お互いが好きなバンドがたまたま一緒だったこともあって、気がつけ...
SNSで始めて彼とメッセージのやりとりをした時は、軽い暇つぶしのつもりだった。だけど、何度かメッセージを交わすうちに、そんなに悪い人じゃないな、と感じてきた。お互いが好きなバンドがたまたま一緒だったこともあって、気がつけ...
心臓に先天性の疾患をもって生まれてきたわたしは今まで急性心停止を3回経験していて、蘇生措置までの間の意識が薄れていく中で毎回おなじ光景をみている。それが夢なのか現なのか?はっきり分からないけれど、わたしはその時の状態を「...
いまから25年前のことだ。事業を営んでいた私の実家は、バブル崩壊の煽りを受けて、見る見るうちに経営に行き詰まっていき、借金に借金を重ねたあげく、あえなく倒産した。ありとあらゆる人間の怒号と、泣き声と、脅しが嵐のように押...
三年前に父が他界するまで、私の実家は「としまえん」のすぐ目の前にある商店街で小さな精肉店を営んでいた。プール客でごった返す夏休みは稼ぎ時で、毎年私は店先の露店でヤキトリを売るアルバイトに借り出された。 毎朝、自宅の...
小学生の頃、お年玉で買ったSANYOの赤くて小さなラジカセでラジオの深夜放送を聴くのが何よりも好きだった。僕がよく聴いていたのは、毎週日曜日の夜にTBSラジオでやっていた『ミステリーゾーン〜体験実話シリーズ〜』という番組...
「そういえば、すこし前にマサヨシ君が来たんよ」 久しぶりに故郷へ帰省した日の晩、台所で調理をする母がおもむろに口を開いた。「そこの棚に、ほら、見えるじゃろ。昔あんたにあれを借りて、返すのを忘れてたって、わざわざ持ってきた...
宇宙の中での自分をはっきりと認識できるその心にくらべて そして、森羅万象と交歓できるその心にくらべて 彼の肉体はあまりにも小さかったから 永くこの世にいることが許されなかった。 子供たちと一緒に、時には一人で森と会話して...
人間は生まれ落ちる土地や育ちを選ぶことができない。 馬は生まれてすぐに立ち上がる。猫は生後一週間で獲物を探す。人間にはそれができない。 あらゆる選択が許されないまま生まれ育つ人間存在は皆、地球という星の孤児である。
生者にまみれて口を開け おろおろと立ち回るだけの 私という木偶の中に 消えてゆく言葉たち 命をもたず 定義という無為のために生起し 砕け散る言葉たち 今、私はその破片を拾い集めて 新しい世界を形づくらなければならない 人...
眼病の棟方志功眼を剝きて猛然と彫るよ森羅万象 「美というものは自分のもんじゃなくて、みんなのものだ。これはもう驚天動地の、僕の美に対する大きな眼の開きでありましたな。」 「目が弱いわたくしは、モデルの身体の線も見えて来な...
「人間とは生と死との間でさまよい、離れようと思っても離れられず、うごめき、捨てようと思っても捨てられぬ愛憎、また悟ろうとあがく生の人間、この悲しい生命ある者の姿、ここから離れられないのだ、という自覚のもとに、仕事をしよう...
「夏というのは一つの心の状態なんだ。」
「技術は改良と衰退の繰り返しである」 「造形芸術と音声芸術は無意味から出発する」 「人間の世界は意味の世界である。それは曖昧性、矛盾、狂気。あるいは混乱を耐えることはでき るが、意味の欠如を耐えることはできない。」 「意...
『映像のポエジア ―刻印された時間―』 (アンドレイ・タルコフスキー著 / 鴻 英良訳 1988年 キネマ旬報社) 旧ソ連の映画監督タルコフスキーの、あまりにも美しく、あまりにも深遠な思想が克明に記録された一冊。すでに絶...